読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

こいつはわたしの犬

精神と時の部屋

ボーダー

係長(33)とバツイチおばさん(41)に進展があって、キスをしたということについて、超えちゃいけない線だったとか係長もどう考えてるんだとかあれこれ大盛り上がりでしゃべる休憩室のお昼休み、その10分前私は同じ席で(わたしの)係長とキスをしていた。今日夜会う約束をしていた。誰も何も、勘付いてもいないだろう。

帰宅して、冷めきったペットボトルのココアを証拠隠滅のように飲み干して、甘いなあ、抱いてるつもりなんて偉そうに言って、されるがままの、甘ったるい余韻の中で、こうならないと言えない本音について考える。

「彼氏ができたらすぐに言えよ、邪魔しちゃいけないし」

「Tさん、わたしTさんのこと好きなんですよ」

「知ってるよ」

係長はいつもわたしに、彼氏ができたらすぐに教えろと言う。我慢しなくていいとも言う。優しく突き放されて、つい、わかってると思うけど、好きだと言ってみせて、言うことで彼を責める。どうするのがお互いにとって優しいことか、わからなくなって、行き場を失って、どうにもならない言葉の代わりに、私達はセックスをする。

彼は疲れていて、私も疲れていて、抱き合って眠ることもできないまま、それぞれの家へ帰る。いい夫をいい父を、いい娘を演じ、明日になれば何食わぬ顔をして、おはようございますと挨拶をする。どこにでも歪みはあって、思うようにいかない日常をなんとか成り立たせるために、お互いをはけ口にしている。

許されることではないし、もし知れたらみんな私の事を軽蔑するだろう。バレなきゃいいと思っているわけでもない。

どうすればいいのかな。深いような浅いようなところへ落ちていく。考えることをやめたら、それこそ救いがなくなる気がして、ずっと、自責と愛と優しさについて考えている。