こいつはわたしの犬

精神と時の部屋

ネトゲと私

26才。慣れた仕事は夢中になれるほど面白くもなく、おばさまに囲まれて年の近い人と話をすることもほぼない、友達の多くない私の田舎町の暮らしは

退屈だった。

暇を持て余してなんとなくガラケーソーシャルゲームをポチポチする日々。ゲーム自体は特に目新しくも面白くもなく、人と交流する気もなかったのでもっぱらソロプレイ。ある程度レベルが上がったところで、ギルドのマスターに声をかけられて、はじめてギルドに所属し、はじめてネットの上で人とコミュニケーションをとる。

29才。信じられないことに、その瞬間から今日までずっと、私はこの小さい画面の中で起こるフィクションに夢中になっている。

いまや長い付き合いの仲間たちの、本名も顔も、性別すらまともに知らない。ハンドルネームの私と現実の私は別人で、だけど、だからこそ、いいと思うことだけをすることができ、正しく素直で正直な、理想のわたしでいられた。想像以上の快感だった。現実の寂しい思いは、ネットの上でみんなと話をしたり、起きた問題に心を砕いたりしていると、とてもいい具合に紛れて、こんな嘘ばかばかしいと思いながらも、やめられなかった。

30才になる前にサービス終了が宣告されて、ほっとしている。年をとるごとに、時間には限りがあること、若さという力の尊さを、ひしひしと感じていて、いつまでもこんなことをしていられないという気持ちと不安は、日に日に強くなっていた。

過ぎてしまった四年という月日の長さと重みは、現実世界のわたしには重たすぎるものなのだけど、でもね、画面の向こうの仲間たちと、たわいもない話をして四年笑って過ごせたこと、もらった沢山の言葉や、それに勇気づけられて私の気持ちが大いに動かされたことも、紛れもない事実で、これは嘘じゃない。出会ったひとりひとりのことを愛してる。ほっとけなくて、嘘かほんとかもわからない報告を真に受けて、応援したり心配したりしてしまう。嘘だってほんとだって構わないんだ。くだらないけど、くだらなくなんかなかった。


でも、やっぱり寂しいよね。夕ごはんなに食べるの?って、もう聞けなくなるんだね。おすすめの映画も、おいしかったデザートも、もう教えてもらえなくなっちゃう。言えなかったごめんねとばかやろうとありがとうは、一生言えないまま

 

きっと、毎日話ができなくなっても、毎日思ってると思う。そのくらい、わたしにとっては強烈で、特別な経験だった。この年になって、そんな友達ができるなんて、思ってなかった。

愛してるよ。

でも、ネトゲはもうこりごり!

 笑